syuu29
棺桶 あるいは二次元と三次元の狭間
経文を読み上げる坊主の声ばかりが聞こえる部屋の中、お前の家族や友人は泣く間へ、押し黙り、唇の表情も隠しておれはひっそりとその弔いに混じる。どこの国でも、時代でも、弔いは大抵似たようなものだ。隣の人間を真似れば、奇妙に目立つことはない。
目の前で、棺に白百合が一本、また一本と献花されていく。花に埋れ、横たわる顔はいつも似ているように思えた。お前はいつもそんな顔で眠りについている。性別も歳も超えて、お前はいつもそうだ。
救済されたお前の魂が、薔薇の香りを伴って様子を伺っている。
おれの言葉の続きが気になっているのか、怯えているのか知らないが、こちらを伺う気配がある。だがいまとなってはもう遅い。言ってはやらない。
「——これは、いい人生であったのかね」
葬式の前、最後の朝に。
お前がおれと世界に別れを告げようとする度に、おれはそんな風に切り出しそうになった。
おれはその瞬間が近づくと、お前に言ってしまいたくなるのだ。
お前に告げてやりたいのだ。これまでもずっと隠してきた事実を。いつかどこかの未来で、お前の鼓動が止まる前に。
「今回はどうだった?」
お前はおれのものだ。永遠に続く、お前の魂はずっと、このおれのものだ。永遠に続けてやる。私とお前の瞬間が決して止まらぬように。
棺の蓋が締められる。火葬するならば、残るのは身内だけだ。さすがにそこまでは紛れ込めない。そっと立ち去る人々に紛れて、おれはその場を離れた。
煙が登るよりも早く、お前の魂はもう天に登りきってしまった。
俺といえどもう、残り香さえもわからない。来世がお前に与えられ、この世に再び生まれ落ちるその時までは。
「ときよ止まれ、おまえは美しい」
お前はそう言って眠る。必ず、おれの口が滑ってしまう前に。
だからお前は知らないだろう。神と俺の手の上で踊るお前の事を、俺は命をやってもいいほど愛しく思っているなどとは、おそらく夢にも思うまい。
(ファウスト読むと頭を支配する妄想 / http://mzs284.tumblr.com/post/46452812202 )